日本の妖怪には、鳥の姿をしたものや、不思議な鳴き声で人を恐れさせるものが数多くいます。
夜空を飛ぶ巨大な怪鳥、道行く人の周囲を飛び回る小鳥、長い年月を経た鳥が怪異となったものなど、その成り立ちはさまざまです。
この記事では、日本の代表的な鳥の妖怪を8体紹介します。
鳥の妖怪一覧
| 名前 | 読み方 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 以津真天 | いつまで | 「いつまで」と鳴く人面の怪鳥 |
| 夜雀 | よすずめ | 夜道で人の周囲を飛ぶ小鳥の怪異 |
| 波山 | ばさん | 口から火を吐く鶏のような怪鳥 |
| 青鷺火 | あおさぎび | 年老いた青鷺が青白く光る怪異 |
| 陰摩羅鬼 | おんもらき | 墓や寺に現れる鳥のような妖怪 |
| 姑獲鳥 | こかくちょう | 中国由来の怪鳥と日本の産女が重なった存在 |
| 鵺 | ぬえ | 鳥の声と複数の動物の姿を持つ怪物 |
| 烏天狗 | からすてんぐ | くちばしと翼を持つ山の天狗 |
以津真天|「いつまで」と鳴く怪鳥
以津真天(いつまで)は、鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』に描かれた怪鳥です。
人に似た顔、曲がったくちばし、蛇のような胴体、鋭い爪と翼を持ち、夜空から「いつまで、いつまで」と鳴く姿で知られています。
石燕は『太平記』に登場する怪鳥の話をもとに、この妖怪を描いたと考えられています。ただし、『太平記』の怪鳥は「いつまで」という名前ではありません。鳴き声を妖怪の名として定着させたのは、石燕の創作的な表現です。
「いつまで放置するのか」と、弔われない死者が訴えているという説明も広く知られていますが、これは後世の解釈です。原典と後代の物語を分けて考える必要があります。
夜雀|夜道を飛び回る小さな怪異
夜雀(よすずめ)は、高知県など四国地方を中心に伝わる鳥の妖怪です。
夜の山道を歩いていると、「チッチッチ」と鳴きながら人の周囲を飛び回るといわれます。目の前をふさいだり、懐へ飛び込んだりするという話もあります。
夜雀そのものが人を襲うとは限りませんが、これが現れると狼や山犬が近くにいる前触れだとする土地もありました。小さな鳥の怪異が、暗い山道の危険を知らせる役割を持っていたことになります。
波山|火を吐く鶏のような妖怪
波山(ばさん)は、伊予国、現在の愛媛県に伝わるとされる怪鳥です。「婆娑婆娑(ばさばさ)」という羽音から名付けられたともいわれます。
大きな鶏のような姿で、赤いとさかを持ち、口から火を吐くとされます。ただし、その火は物を焼くほどではなく、人に大きな害を与える妖怪ともされていません。
現在知られる波山像には近代以降の妖怪図鑑によって整理された部分もあります。古い地域伝承と、後世に定着した図像を同一視しないことが大切です。
青鷺火|年老いた青鷺が光る怪異
青鷺火(あおさぎび)は、年老いた青鷺が夜になると青白い光を放つという怪異です。
鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』にも描かれています。暗い水辺に立つ白や灰色の鳥が、月明かりや湿地の光によって不思議に見えたことが、伝承の背景にあるのかもしれません。
狐火のような怪火と、実在する鳥の姿が重なった妖怪といえるでしょう。
陰摩羅鬼|供養されない死者から生まれる鳥
陰摩羅鬼(おんもらき)は、黒い鶴や鷺に似た体に人の顔を持つとされる妖怪です。寺や墓地に現れ、読経を怠った僧を驚かせる話で知られています。
鳥山石燕は『今昔画図続百鬼』で、十分に供養されていない新しい死体の気が陰摩羅鬼になるという趣旨の説明を添えています。
ただし、石燕が引用した中国由来の説明と、日本で後に語られた妖怪像は完全に同じではありません。死者の供養を怠ってはならないという仏教的な戒めを背負った怪鳥です。
姑獲鳥|中国の怪鳥と日本の産女
姑獲鳥(こかくちょう)は、中国の文献に登場する怪鳥です。夜に飛び、子どもをさらったり、自分の子として育てようとしたりする存在として語られました。
日本では、出産で亡くなった女性の霊である産女(うぶめ)と結びつき、同じ漢字を「うぶめ」と読むことがあります。しかし、中国の鳥の怪異と、日本の産女伝承はもともと別の系譜です。
「姑獲鳥=必ず鳥の姿をした産女」と単純化せず、二つの伝承が書物の中で重なったものとして見ると理解しやすくなります。
鵺|鳴き声から生まれた合成怪物
鵺(ぬえ)は、『平家物語』の源頼政による怪物退治で有名です。
物語では、頭は猿、胴は狸、手足は虎、尾は蛇とされる異形の怪物が、夜の御所を脅かします。一方、「鵺」という言葉は本来、夜に寂しげな声で鳴くトラツグミを指したと考えられています。
鳥の名や鳴き声と、空を覆う黒雲の中の怪物が結びつき、後世の鵺像が形成されました。鳥そのものではありませんが、「正体の見えない鳴き声」が妖怪を生んだ代表例です。
烏天狗|鳥の姿を残す山の天狗
烏天狗(からすてんぐ)は、鳥のくちばしと翼を持つ天狗です。
現在、天狗と聞くと赤い顔と高い鼻を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし中世の絵巻では、天狗が猛禽類に似た姿や、くちばしを持つ人型として描かれる例があります。
烏天狗は山伏姿で描かれることも多く、山岳修行、空を飛ぶ力、鳥の鋭さが一つになった存在です。
なぜ鳥は妖怪になったのか
鳥は空を飛び、人間が近づけない高所や山奥へ移動します。夜に鳴く鳥は姿が見えにくく、声だけが暗闇から聞こえます。
さらに鳥は、地上と空、生者の世界と死者の世界を行き来する存在としても想像されてきました。そのため、怪鳥は単なる巨大な鳥ではなく、死者の声、災いの前触れ、山の霊力などを表すことがあります。
以津真天や鵺は不気味な鳴き声、青鷺火は夜の光、陰摩羅鬼は死者の供養と結びついています。鳥の妖怪を比べると、人が夜空や山の音に抱いた恐れが見えてきます。
まとめ
鳥の妖怪には、実在の鳥が怪異化したもの、中国の文献から伝わったもの、絵師が古い物語をもとに姿と名前を与えたものがあります。
すべてを同じ「怪鳥」として扱うのではなく、どの時代の、どの資料に登場するのかを確かめることが重要です。
個別の伝承をたどると、空を飛ぶ妖怪の姿だけでなく、暗闇の中で音を聞き、見えないものを想像してきた人々の感覚も伝わってきます。